ホイールに優しい走り 全日本ラリーチャンピオンの場合

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今回は全日本ラリーチャンピオンの素晴らしい走りについての話しです。

結構昔の話しなのですが、日本でも指折りの名ドライバーのテストに同行する機会に何度か恵まれ、そこで見た驚きの走りについて書いてみました。

 

先日アップした記事内で、内リムが変形したホイールの例を挙げていますが、ホイールはタイヤと共に路面からの衝撃を常に受け止め続けています。

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その衝撃が大きすぎると、タイヤバーストやホイールの変形、最悪ホイールだけでなくサスペンションアームやショックアブソーバーの破損に繋がることもあるのです。

中でも未舗装路で勝敗を決めるグラベルラリーでの路面からの衝撃は、その他のいかなる状況よりも大きなものになります。

そのためグラベルラリーに使用されるホイールは重たく、強度・剛性を重視し、耐衝撃性に優れたモノが殆どなのです。

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そんなグラベル用ラリーホイールでも対応が厳しいのが、深い轍(ワダチ)が掘れた荒れた路面です。

グラベルラリーのスペシャルステージで使用される路面は、競技開始直後はフラットなのですが、繰り返し走行されることによりダートの路面が掘れて深い轍ができてくるのです。

深い轍を走行する日産フェアレディ260Z

上記画像のフェアレディZのタイヤの部分をご覧頂くとわかりますが、扁平率65%のラリータイヤのサイドウォールが轍の中にすっぽり入ってしまって見えない位の深さの轍を走行しています。

この轍が曲者なのです。

この轍の中にはホイールを一発で変形させるほどの破壊力を持つ魔物が潜んでいることがあるのです。

 

それはグレーチングです。

 

グレーチングとは、山側から谷側に排水するためのコンクリート製の排水溝で、側溝とは違い、林道を横切る形で配置されています。

ラリーコースの直線にあるグレーチングは魔物と言うほどではないのですが、コーナー中を横切っているグレーチングが厄介なのです。

コーナー手前で競技車両は減速するので、その部分から深く掘れた轍になります。

曲がっている最中はコーナリングGがかかるので、そこにも深い轍が掘れます。

轍とコーナーは切っても切れない関係にあるのですが、その中にコンクリート製のグレーチングがあるとどうなるのか?

ラリータイヤのサイドウォールがすっぽり収まる深さの轍の中に、タイヤで幾ら掻き毟っても削れることの無いコンクリート製のグレーチングがある状況を想像してみて下さい。

轍の深さは10㎝くらいになるにも関わらず、そこにあるグレーチングは、轍が掘れる前の地表面に合わせて設置されているのです。

ボブスレーのコースの中にいきなりコンクリート製の壁があるようなものです。

競技中ですので当然全開走行中、にもかかわらず、いきなり高さ10㎝くらいのコンクリート壁が土中に仕込まれているのです。

そのまま踏みつければダメージは計り知れない…、でも減速するとライバルに勝てない…どちらを取るべきか悩む、何とももどかしい状況なのですが、どうすれば競技車両を壊さず、早く走ることができるのでしょうか?

 

ホイールやラリー車に優しく、かつ早い走り

 

今回の話しは某全日本ラリーチャンピオンのナビシートに座って体験したことです。

かなり昔のことですが、とある全日本ラリートップドライバーのテストに同行する機会に恵まれたことが結構ありました。

この人は後に全日本ラリーチャンピオンにもなった凄腕のドライバーで、その横に乗って轍の深く掘れたコースを走っているときに気付いたのです。

早いだけでなく「音が静か」、「衝撃も少ない」と。

自分の競技車両でも同じコースを走行したのですが、その時は「ガシャガシャガシャ…」、という派手な音が絶えず聞こえる走りで、後の全日本ラリーチャンプとなる人の走行タイムには全く敵いませんでした(当然ですね…)。

その全日本ラリートップドライバーの走りは、「カシャカシャカシャ」といった音がする程度、たまに「ガシャ」って音がするくらい、同じコースを走行しているのに騒音の差が歴然でした。

 

自分が走行した時の「ドカッ!」、「ゴツッ!」という音は、轍の中のグレーチングにブチ当てた時の音、「ガシャガシャ」という音はコーナリング中にアンダーガードが路面に擦れる音、それは分かるのですが、全日本ラリートップドライバーの走行時に何故そのような音が聞こえないのか?

何度か横に乗り、少し注意深くその走りを観察していると分かったのです。

「ガシャガシャ」という音が聞こえないのは、コーナリング中に轍から飛び出さないギリギリのスピードで、轍の外側の上の縁(ふち)にタイヤを引っかけたままハイスピードでコーナリングし、轍の底にタイヤを付けていないためアンダーガードが路面と擦れていないから。

グレーチングにブチ当てる音や衝撃がないのは、コーナー途中にグレーチングがあれば、轍の内側上の縁の部分を使ってグレーチングを超えていることが分かったのです。

轍の縁が一番グレーチングの段差が低くなるところなので、その場所を狙って走行することで、車速を落とさず、車へのダメージを最小化する走りをしていました。

轍走行のお手本

稚拙な絵でごめんなさい…MSのOEMソフトであるペイントで一生懸命書きました。

茶色の部分は路面、グレーの部分は土中に埋まっていて、半円形の轍の中に露出したグレーチングです。

グレーチングが無ければ、轍の外側の縁の赤い〇のところにタイヤを引っかけて、スピードを落とさずにコーナリングしていくのですが、グレーチングがあれば、轍の外側の縁から一旦降りて、反対側の轍の内側の縁の黄色い〇のところへ上り、最小の段差でグレーチングを乗り越えることで衝撃を抑えていました。

グレーチングを乗り越える際に僅かにジャンプするのですが、その間に遠心力で走行ラインが僅かに外側にズレることも計算の内で、轍の外側に引っかかるように着地する、絶妙なコントロールで走行していたのです。

競技車両もホイールも傷まないし、タイムロスもしない、計算しつくされた走りとはこのようなことを指すのでしょう。

超一流ドライバーの走りはホイールにも優しく、流石だと思いましたね。

 

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