何故ホイールにクラックが入るのか? その原因を再考してみました。
ホイールにクラックが入る理由について、金属疲労が原因だと以前書いたことがあります。
そのこと自体が間違っているとは今でも思っていないのですが、金属疲労以外にもホイールにクラックが入る原因を思い付きました。
それは熱です。
その昔、競技車両のボディを補強している方から聞いた話なのですが、
「良いボディは、固いだけでなく、しなやかでなければならない。スポットの数を増やせば、ボディは固くなるけれど、同時に脆くなってしまう。特にスポット溶接の熱が加えられた箇所は、火を入れたことによって脆くなるので、バルクヘッド等は形状を見ながら、あえてスポット溶接を入れないところもある」という話を思い出しました。
これが、「ホイールのクラックの原因の一つに熱があるのでは?」と思ったキッカケなのです。
ホイールの原料でもあるアルミも含め、金属には熱によって性質が変化する特性があり、この性質を利用して、加熱・冷却することにより、金属の硬度や性質を変化させることを「熱処理」といいます。
熱処理には多くの工程がありますが、代表的なのは「焼入れ」と「焼き戻し」です。
焼入れは、金属を硬くすることが目的として行われます。しかし、焼入れしただけでは固いだけの金属となり、先ほどのボディ補強の話同様に脆くなるので、熱を冷ましながら、場合によっては再加熱したりして、硬さを調整しつつも粘りや強靭性を高める作業が「焼き戻し」になります。
アルミも熱を加えると固く脆くなるのですが、ホイールの製造工程においては、厳密に温度管理され、靭性を高めるための焼き戻しも行われているので問題ありません。
問題なのはユーザーの手元に来てからのホイールへの加熱が問題なのです。
ユーザーの手元でおこるホイールへの加熱などありえるのか?
ユーザーの手元ではブレーキの排熱によってアルミホイールへの加熱が起こります。
長時間走行し、夜間も走る耐久レース等で良く見られる光景ですが、加熱したブレーキローターが、ホイールの奥にぼんやりと赤く光るのを見たことがあるかもしれません。
自動車競技等ではハードなブレーキングを繰り返すことで、ブレーキローターが物凄く熱くなり、その結果アルミホイール自体も素手で持てないことが起こりえます。この熱がアルミホイールのクラック発生の要因の一つと考えられるのです。
因みに、ブレーキローターの温度はどれくらいになるかご存知でしょうか?
ブレーキパッドメーカーのプロジェクトμさんのサイトにそれに関する情報がありました。
寒冷地を除いた市街地ではMAX200度位、高速道路ではMAX300度位、ワインディングロードではMAX600度位になるそうです。
また、耐久レース向けとしてラインナップされている「Project μ CLUBMAN SINTERED(クラブマン・シンタード)」の製品情報を見ると、350度~1,000度の作動温度域で安定したコントロール性を発揮と書かれているのに驚きます。
この情報を見れば、アルミホイールがいかに温度的には過酷な環境におかれているかが分かると思います。
市街地しか走らない車と、峠道やサーキットを走る車では、ホイールに加えられる熱に大きな差が生じます。
峠道やサーキットを走行する車に装着されたホイールは、ブレーキローターからの排熱により、加熱→冷却→加熱→冷却を繰り返し、焼き入れがされているも同然の状況により靭性が損なわれることもあるでしょう。
また、ミクロン単位で見たら、加熱すれば膨張、冷却すれば収縮のサイクルは繰り返すことにもなります。
加熱により靭性も失われ上で、膨張→収縮→膨張→収縮を繰り返すうち、やがてはクラックが入ってしまうことが容易に想像できます。
「古いホイールには目に見えない疲労が蓄積されているリスクもあることを認識しておきましょう」と以前書きましたが、ホイールの見えない疲労には2種類あって、金属疲労だけでなく、熱による疲労にも気をつけたほうが良いと思います。
ハードに使われたと思われるホイールは注意が必要で、メタルブレーキパッドが固着した様なホイール等は、出来れば購入を避けた方が良いと思われます。
焼入れは、「怖い先輩から生意気な後輩にされるもの」ではなく、「熱いブレーキローターからあなたの大事なホイールにされるもの」だと言う事が今回の結論と言うことでしょうかね。
ホイールは熱や力が加わらない状況で使われることは無いので、結局のところ、消耗品だと考える必要があるのかもしれません・・・。