アルミホイール軽量化 3つの手法
1996年にRAYSのVOLK Racing TE37が発売されて以来、DESMOND Regamaster EVO、Spoon SW388、Racing HART CP-035、VOLK Racing CE28N、P1RacingQF、5zigen FN-01R、SSR type Cといった超軽量なホイールが、次々と世に送り出され、2000年前後のアルミホイール業界は、「ライバルよりの1gでも軽く」という、軽量化競争の波に洗われていました。
より軽量化するために、当たり前の様に鍛造1ピース製法が選択されただけでなく、剛性・強度を保ちつつ、極力贅肉を削ぎ落とす必要があるため、ホイールメーカー各社は、あの手この手でホイールの軽量化に努めたのです。
その当時のホイールメーカーが採った主なホイール軽量化の手法をざっと挙げてみますと、
①ナット穴周辺の肉抜き
②ディスク・スポークの中空化
③塗装ではなくアルマイト皮膜の採用
といったものがあげられます。
①ナット穴周辺の肉抜き
そもそも剛性・強度を確保できる範囲で、極限まで薄く製造されている軽量1ピースホイールから、更に削ぎ落とせるところは余りないのですが、削ぎ落とせるとしたらナット穴周辺なのでしょう。
この部分に穴空けや肉抜きを施したホイールは多数有ります。例えば、下の画像はRE30の裏側の画像ですが、ナット穴の間にも穴があります。
中でもRegamaster EVO、Spoon SW388の肉抜きの仕方はかなり大胆です。
16インチ以上のサイズでは肉抜きは無し、15インチ5穴タイプは穴空け程度ですが、15インチ4穴タイプは正に大胆と言う以外ない、画像の通りガッツリ肉抜きしています。
何故15インチ4穴タイプだけこんなに肉抜きされているのか?
理由を考えてみましたが、やはりアンダーパワーのコンパクトカーに使用されるサイズだから、強度的に不安が無いと判断されたからではないでしょうか。
②ディスク・スポークの中空化
ENKEI RacingLINE RC-5、YOKOHAMA AVS MODEL 6、同じくヨコハマゴムから発売されていたADVAN Racing TCⅡは、ディスク・スポーク部分を中空化することで軽量化を図っています。
中でもADVAN Racing TCⅡは、非常に凝った作りのホイールだと思っています。
何故ならスポーク部分を中空としつつも、1ピース構造を採用しているからなのです。
ディスク・スポーク部分とリム部分を別々に製作した後、それらを溶接して接合しているENKEI RacingLINE RC-5やYOKOHAMA AVS MODEL 6とは異なり、ADVAN Racing TCⅡは、1ピース構造で中空スポークを実現しています。
溶けたアルミ合金を型に流し込んで製造される鋳造ホイールの製作過程を考えると、どのようにすれば1ピース構造で中空スポークを作るのかが不思議でなりませんでした。
その秘密を解くカギは、中空ホイールにかならず付いているゴム栓の位置にあるのでは?と考えています。
ENKEI RacingLINE RC-5とYOKOHAMA AVS MODEL 6ホイールを裏からみるとスポークの裏側に黒いゴムの栓があり、これを外せば中が中空になっていることが分かります。
それとは異なりADVAN Racing TCⅡのゴム栓の位置はナット穴横についているのです。
恐らく1ピース構造を採用したホイールを鋳造しても、この穴の位置ならば、アルミが冷えて固まった後に上手く型枠材を抜けるのだろうと考えました。
重量的には2ピース構造のENKEI RacingLINE RC-5やYOKOHAMA AVS MODEL 6よりも、接合部に強度を確保する必要のない1ピース構造を採用したADVAN Racing TCⅡの方が軽く仕上がっているようです。
③塗装ではなくアルマイト皮膜の採用
ホイールに使用されるアルミ合金そのものを減らす①ナット穴周辺の肉抜きと、②ディスク・スポークの中空化と比べて、それ程重量を軽減できるわけではないですが、ホイールの最終的な仕上げともいえる色付けの工程において、塗装ではなくアルマイト被膜を採用することで、塗料の分の重さをグラム単位で軽量化することが可能なのです。
この手法を採用したのが、RAYSのVOLK Racing TE37、CE28N、SE37やSpoon SW388といった鍛造1ピースホイールです。
僅かグラム単位の軽量化しかできないことを考えると、コスト的にもあまり割に合わないように考えられますが、それだけアルミホイールの軽量化競争が激しかった証拠とも言えます。
コストのわりに大幅に軽量化できるわけではないアルマイト被膜を採用したホイールはあまり多くありません。
これまで挙げたホイール以外にMUGENのMF8、MF10、GP等には採用されていますし、今もRAYS VOLK Racingシリーズでは多くのブランドにブロンズのアルマイト被膜が採用され続けています。
さて、これら軽量化の対策を施した究極の軽量ホイールを挙げるとしたら何があげられるのでしょうか?
個人的には、大胆な肉抜き、黒のアルマイト被膜によるカラーリングと2つの軽量化策が施された、15インチ4穴タイプのSpoon SW388になると思います。
実際、15インチ4穴タイプのSpoon SW388の重量計測結果を既に公開していますが、15インチの超軽量ホイールの認定基準である、4kg台を更に下回る3.9kgという驚きの軽さを実現しています。
ここまで触れてきたホイール軽量化の具体策のお話はどうでした?
恐らく、2000年代のアルミホイール軽量化競争の時期に、あらゆる軽量化の手が尽くされ、軽量化は行き着くところまで行き着いたのでしょう。
その後のアルミホイールは、ただ軽量さを謳っただけのブランドは余り見かけなくなったような気がします。
代わりに軽量且つ剛性の高さを売りにしたホイールが主流となりました。
この辺り理由についてはホイールだけでなく自動車自体の重量増加もかかわっているとは思います(以前に投稿した「車の重さとホイール重量の関係」の記事も参照してみてください)。
そのため新たな軽量化の決め手は現れていないような気がします。
このままアルミホイールは、更なる軽量化を目指さないままなのでしょうか?
まぁ、目指すとしたら、もうアルミホイールの時代ではなく、カーボンホイールの時代を迎えることになるのかもしれませんけどね…。
「アルミホイール軽量化 3つの手法」以外にも、アルミホイールに関する豆知識を多数まとめています。こちらも是非ご覧ください。